糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症(腎症、神経障害、網膜症)の一つで、日本における中途失明原因の上位に位置します。日本の糖尿病罹患者の約3割が糖尿病網膜症を発症するといわれています。
糖尿病は、血糖値が上昇する生活習慣病です。高血糖が続くと、網膜の血管が少しずつ傷ついてきます。それにより、血管が詰まりやすくなり、網膜に酸素や栄養が十分に届かなくなり、糖尿病網膜症が発症します。出血や浮腫(むくみ)が起こり、視界がぼやけたり暗くなったりします。血管が詰まって機能しなくなると、新生血管というもろい血管ができて眼内に大きな出血を起こしやすくなります。進行すると失明に至ることもあります。
糖尿病と診断されたら定期的に眼科の診察を受け、糖尿病網膜症を早期に発見し、適切な治療を行うことが大切です。
糖尿病網膜症になりやすい方
以下のような方は糖尿病網膜症のリスクが高くなります。
- 糖尿病の罹患期間が長い(特に10年以上の方)
- 高血糖が続いている(血糖値の経過を反映するHbA1cが高い方)
- 血圧が高い(高血圧は血管への負担を増やします)
- 脂質異常症がある(コレステロールが高いと血管のダメージが進みやすくなります)
- 喫煙習慣がある(血流が悪くなり、血管が詰まりやすくなります)
- 適切な糖尿病治療を受けておらず、血糖値がコントロールされていない
これらのリスクがある方は、早期の眼科受診をお勧めします。
糖尿病網膜症の症状
糖尿病網膜症は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、気づいたときにはすでに進行していることが多いのが特徴です。
病気が進行すると、次のような症状が現れます。
視界がかすむ、ぼやける、暗い場所で見えにくい、視野の一部に黒い影や点が現れる、視力が急激に低下する、などです。
糖尿病網膜症は、進行に応じて3つの病期に分けられます。
- 単純糖尿病網膜症(初期)
- 網膜の毛細血管が壊れ始めて、所々で点状や斑状に出血したり、漏れ出た血液の成分が白い染み(硬性白斑)を作ったり、血管に瘤(こぶ)ができたりします。この段階では自覚症状はありません。しっかりと血糖値のコントロールを行い、定期的な経過観察を受けることが重要です。
- 増殖前糖尿病網膜症(中期)
- 毛細血管へのダメージが蓄積し、網膜の血管が広範囲に閉塞している状態です。かすみ目などの自覚症状がある場合もありますが、全く症状が現れない場合もあります。定期的な診察と適切な治療が必要です。放置すると進行期へと進みます。
- 増殖糖尿病網膜症(進行期)
- 網膜の血管が広範囲に閉塞し、新生血管というもろい血管が作り出され、硝子体中へと伸びていきます。
新生血管が破れると目の中に多量の出血が起こります。これを硝子体出血といい、視界に黒いカーテンがかかったように見えます。この状態になると、日常生活にも大きな支障をきたします。他に網膜剥離、血管新生緑内障など重篤な合併症を伴うこともあり、適切な治療を行わないと失明の可能性もあります。
*糖尿病黄斑浮腫
黄斑部とは網膜の中心部・直径約1.5mmの範囲を言い、物を見るのに一番重要な部分です。糖尿病黄斑浮腫は、網膜の血管から血液中の成分が漏れ出し、黄斑がむくみ、視界がぼやける、注視するものがゆがむ、暗く見えるなどの症状が起こります。
視力に大きな影響を与える糖尿病黄斑浮腫は、どの段階でも現れます。
糖尿病網膜症の治療法
糖尿病を発症したら定期的に眼科の診察を受けてください。初期であれば食事や運動などによる血糖コントロールで網膜症の進行を抑えることが可能です。進行してしまった場合は、病期に応じて硝子体注射、レーザー治療、外科的手術を検討する必要があります。
必要に応じて提携する高度医療機関へご紹介させていただきます。
血糖値のコントロール
食事療法や運動療法を徹底し、必要に応じて薬物治療も行い、HbA1cの値を安定させることが重要です。高血圧や脂質異常症がある場合は、それらの治療も並行して行います。
硝子体注射(抗VEGF療法)
新生血管は、VEGFという糖たんぱく質によって成長が促されます。「抗VEGF薬」を硝子体に注射することで、新生血管の発生を抑えたり、網膜のむくみを軽減し、視力の回復を促します。
レーザー治療(光凝固術)
レーザー治療によって新生血管の発生を抑え、網膜症の進行を抑えます。
硝子体手術
重症例では、硝子体出血や網膜剥離を起こします。硝子体手術では、細い器具を眼内に挿入して眼内の出血や網膜剥離治療し、視力を回復させることを目指します。